55巻の珊瑚とりんと殺生丸の考察もどき

珊瑚がりんを犠牲にしかけた件での珊瑚と殺生丸について、思ったことをまとめます。
とはいえ、56巻P.34でりんが珊瑚に防毒面を返してお礼を言うところ、殺生丸がその様子を見つめているところで、殺生丸の中ではこの問題は終わっているみたいなので、それ以外で思うことをまとめました。

りんの様子を見た殺生丸は、仮にこの子に裁定を委ねれば、きっと珊瑚を許すだろうと、もしくは、りんの様子から珊瑚は自分たちの敵ではないと判断し、珊瑚を裁く必要はないと感じたのだろうと思います。

一方、その件が終わったと思っているのは殺生丸だけで、当然、珊瑚は引きずるでしょう。
彼女はそういうことを有耶無耶にはできないだろうし、闘いが終わってから、殺生丸に詰め寄りそうです。
殺生丸にとっては終わったことなので、面倒臭いし、珊瑚を無視してさっさと行こうとする。
でも、珊瑚は納得しない。
喧嘩を売るような勢いで追いかける。
しょうがないから、殺生丸は「必要ない」とかひとこと言って、えっ?と怯んだ珊瑚がなぜなのかを訊き返そうとしたところへ、「殺生丸さまー」という小さい人たちの声が近づいてくる。
りんが珊瑚ににこっとして、戸惑う珊瑚を残し、殺生丸の一行はいつもと変わらない様子で去っていく。
そんな感じを思い浮かべてます。
そうなれば、珊瑚は誰かに相談したいところでしょうが、今回ばかりは弥勒に相談するわけにはいきません。
知られたくないとか、そういうことではなくて、その行動の動機が弥勒自身の生命であり、徒に打ち明ければ、彼女を追いつめた責任を感じ、珊瑚以上に弥勒が苦しむことが予想されるからです。
とはいえ、罪の意識を一人で抱えることは、珊瑚には荷が重すぎます。
そこで、彼女は犬夜叉に相談するんじゃないかなと思うんです。
いろんな意味で彼が適任です。
珊瑚の悩みを聞いた犬夜叉は、殺生丸の心情を推し量るのに少し迷うかもしれませんが、慎重に考え、珊瑚に指標を与えてくれるでしょう。
「殺生丸が何も言わねえのなら、それでいいってことじゃねえか?」
みたいな感じで。
珊瑚は犬夜叉の意見を聞いて、それを自分なりに考えて、そしてようやく納得するのではないだろうか。


あと、気になったのが、55巻PP.92-94の珊瑚を見据える殺生丸の表情です。
何考えてるのかな、って。
怒っているのはもちろんですけど、あれ、珊瑚の話を聞いているんだろうか。
相手の言い分を聞いているというより、自分の本能や直感を研ぎ澄まし、相手の真意を見極めようとして、その真意を汲み取るのに時間がかかっているように感じます。
りんに危害を加えるだけの者なら、即座に殺されていてもおかしくはない。
そのことのみが問題なら、殺生丸には珊瑚の言葉も琥珀の言葉も重要ではありません。
その上で、彼がああも動かずにいるのは、珊瑚の行動の意味を掴みかねているからではないのか。
目の前の娘を「退治屋」または「琥珀の姉」と認識しているのではなく、「犬夜叉の仲間」として認識し、「犬夜叉の仲間」がなぜ人間の子供を手に掛けようとするのか、それが理解できなかったのではと思います。

この世界の妖怪と人間を比べると、人間のほうが、より複雑な心の仕組みをしていると感じます。
妖怪の世界において、強大な力を誇る殺生丸も、最初はそれほど複雑な精神構造を必要としなかった。
対する犬夜叉は、いろんな意味で複雑に絡み合ったものに取り囲まれ、苦しみながら生きることを余儀なくされています。
殺生丸が犬夜叉の複雑な感情の襞を理解するには、より人間的な精神が必要です。
悩まない者は成長しませんから、殺生丸にも悩む必要があったのでしょう。父上の遺産として。

殺生丸はりんから家族の情を、神楽から恋愛の情を教えられ、それらの経験が、少しずつ犬夜叉という存在を理解する手助けとなっていった…と、考えています。
殺生丸からりんへは「父性愛」「庇護」、りんから殺生丸へは「信頼」「憧れ」といった感情を抱いている印象です。
余談ですが、古い映画に「ペーパー・ムーン」ってありますよね。
私の中で、殺生丸とりんはそのまま「ペーパー・ムーン」のイメージです。(あるいは、ジャン・ヴァルジャンとコゼットとか)
神楽のは片恋でしたけど、最後の最後ですれ違いの恋に見えました。
神楽がもし、この先生きていたら、殺生丸との恋愛は成立しただろうと思いますが、同時にその if はありえないとも思います。
彼女は奈落の分身ですから、生き残れば別の問題が生ずるでしょう。

珊瑚とりんのこの件では、殺生丸の中に少しずつ根付いていた犬夜叉という存在への肯定が、問答無用で珊瑚を引き裂くことを彼に躊躇わせていたように見えました。
それでも、このときの珊瑚の複雑な背景、複雑な心理状態を即座に読みとることはできなかったのでしょう。
だから、珊瑚の心を見極めるのに時間がかかったのではないかと思うのです。

珊瑚のほうは、いずれ自分たちの幸せが磐石のものと実感できるようになれば、このことを寝物語にでも弥勒に話すだろうと思います。
弥勒は多くを言葉にせず、珊瑚を抱きしめてくれるでしょう。

2014.3.16.