子供がいてもラブラブな夫婦に10題
01:子供は誰似?
洗濯物を取り込む珊瑚を、この日、家にいた弥勒が手伝う。
夫婦になって、子供が生まれ、けれど何年経っても、労わり合う気持ちは、ともに生きようと約束した頃のままだ。
取り込んだ洗濯物を縁側で一緒にたたむ二人の視線の先には、裏庭で駆けまわって遊んでいる三人の子供たちの姿があった。
双子の娘の弥弥と珠珠、そして、その弟の翡翠だ。
「面白いものだな」
ふと、弥勒がつぶやく。
「双子だというのに、大きくなるに従って、はっきりと個々の違いが出てくる」
「そうだね。外見はそっくりなのにね」
珊瑚がやさしい表情を浮かべた。
「どちらかというと、弥弥は思慮深く、珠珠は天真爛漫な印象だな」
「弥弥には自分が姉だという自覚があるんだよ。でも、弥勒さまが言った二人の性格、ちょっと面白いね」
「そうですか?」
弥勒は洗濯物をたたむ手をとめ、妻を見た。
「だって、正反対のようで、どちらも弥勒さまの性格を受け継いでいる」
「天真爛漫も?」
怪訝な弥勒を珊瑚は楽しそうに見つめ返した。
「天真爛漫を奔放って言いかえてみたらどう? 礼儀正しさと奔放さが入り交じっているよね、弥勒さまって」
「それ、褒めてます?」
「子供たちには裏表がないから問題はないよ」
珊瑚は少女のようにくすくす笑う。
「私には裏表があって、問題があるというように聞こえますが」
「思い当たることが多すぎて、忘れちゃった?」
悪戯っぽく指摘され、弥勒は苦笑をこぼして、再び子供たちに視線を向けた。
「では、翡翠は誰に似ていると思う? 目許が珊瑚によく似ているが、性格はどちらに似ているだろう」
「弥勒さまじゃないよね。強いて言うなら琥珀かな」
すると弥勒は、口許に拳を当て、可笑しそうに小さく笑った。
「なに?」
「確かに、活発な姉に振り回されている生活環境が同じだからな」
「ちょっと、どういう意味?」
珊瑚が赫くなって法師をぶとうとすると、その手を逆にとらえられてしまった。
引っ込みがつかなくなって、彼女は憎まれ口をたたく。
「だいたい、弥勒さまに似たら困るよ。女好きだったり、いい加減だったり、平気で嘘ついたりするような、そんな性格にはなってほしくない」
「ひどい言い草だな。おまえが惚れた男でしょう?」
「違う」
きっぱりとした珊瑚の様子に、弥勒はわずかに眉を上げた。
「あたしが惚れたのは法師さまで、法師さまが、たまたまそんな性格だっただけ」
「……」
弥勒がじっと珊瑚を見つめると、彼女は自分が言った言葉の内容に気づき、慌てて瞳を伏せた。
掴まれたままの手を引こうとするが、弥勒は彼女の手を放そうとせず、いつまでもそんなことをしていて、洗濯物は片付かないままだ。
夫の視線を意識し、恥ずかしげにうつむいていた珊瑚は、ふと顔を上げて、付け加えた。
「でも、自分の子には、ああいうことを平気でするような人間にはなってほしくない」
「生きていく知恵だったと考えてくれませんか」
弥勒はほっとため息を洩らした。
いつの間にか、遊び疲れた子供たちは茂みの陰に座り込み、仲睦まじげな両親の姿を庭から眺めていた。
「父上と母上、また、二人の世界だね」
「知ってる、父上と母上はおいしい鳥なんだよ」
得意げに翡翠が言うと、
「何それー」
双子の弥弥と珠珠はくすくす笑い出した。
「オシドリでしょ」
「そう言ったもん」
「言ってないよ。おいしい鳥って言った」
「じゃあ、姉上たちはオシドリが何か知ってるの?」
双子は顔を見合わせ、内緒話を打ち明けるように、額を寄せて小さな弟にささやいた。
「オシドリっていうのはね」
「父上と母上は、いつもらぶらぶ、ってことなんだよ」
〔了〕
2014.9.23.