子供がいてもラブラブな夫婦に10題
02:近所の評判
「妖怪退治をなさっている法師さまのお宅というのは、この辺りですか?」
村の外から弥勒に妖怪退治を頼みに来たらしい男は、畑仕事をしていた村人に法師の家を尋ねた。
仕事は確実だが値も張ると聞いている。
ついでに、法師自身についても尋ねて廻った。
何人かの村人たちから聞いた法師の人となりを男は頭の中で整理する。
曰く、弥勒法師という人物は、
妻女との仲睦まじく、
家族思いで、
子供の面倒見もよくて、
温和で、
法師としての人当たりもよく、
妖怪退治の腕も噂通りらしく、
欠点と言えば料金が高いということだけのようだ。
教えられた家はすぐに判った。
男はその家の扉を叩く。
しかし、四半刻も経たぬうちに、肩を落としてすごすごと出てきた。
道の向こうから意気消沈して歩いてくる男の姿に、野菜の束を持った犬夜叉と、小さな包みをかかえた巫女姿のかごめが、怪訝そうに目をとめた。
二人は弥勒と珊瑚の家へ頼まれていた野菜や薬草を届けるところだ。
「ねえ、犬夜叉。あの人、村の人じゃないわね。妖怪退治を依頼しに来たんじゃない?」
「だろうな。この先は弥勒の家しかねえし」
「あの様子じゃ、引き受けてもらえなかったみたいね。予算オーバーかな」
「報酬は、あるところからぼったくるのがあいつの主義だからな。にしても、仕事を断っちゃ何にもならねえだろうに」
男は身なりから判断するに、大きな屋敷の使用人のようだ。主人の使いだろう。
ひそひそ話していた犬夜叉とかごめは、すれ違い様に、男を呼びとめた。
「あの、もしかして、弥勒さまに妖怪退治の依頼ですか?」
「あ……はい。この村の巫女さまですか?」
男は驚いて顔を上げ、若い巫女と、その横に立つ銀色の髪の半妖とを見比べた。
「相当ふっかけられたんだろ。ま、今さら驚きゃしねえがな」
「ああ……共同で仕事をされている方ですか」
法師は半妖の少年と一緒に仕事をすると聞いている。
男はややほっとしたような顔をしたが、すぐにまた眉を曇らせた。
「ですが、どうも、法師さまを怒らせてしまったようで……」
「どうして?」
男は汗を拭った。
「それがその。高額だとうかがってましたので、その、少し値切る方法はないものかと」
「はあ」
「村の方たちに法師さまの人となりを聞き、ご助言いただいたのですが、何故か、法師さまのご機嫌がどんどん悪くなり……」
「何したんだ?」
「女房どのを褒めればいいと聞きまして──」
ぱちぱちとまばたきをして、犬夜叉とかごめは顔を見合わせた。
男が村人たちから得た情報によると、法師はたいそうな愛妻家で、女房どのを持ち上げて和やかな気分にさせれば、いくらか値引きしてもらえるのではあるまいか、とのことだった。
「最初、挨拶をしたきり、ご妻女はすぐに下がられましたが、なるほどお美しい方で、褒める言葉に苦労はいたしませんでした。そうしましたら……」
褒めちぎりすぎて、法師はおかんむりになってしまったという。
犬夜叉は呆れたようにため息をつき、かごめは苦笑を洩らす。
「やりすぎちゃったのね」
「恋女房だからな。関心を持たれ過ぎると、機嫌が悪くなるんだよ」
「私はどうすれば……屋敷に戻って、旦那さまに何と言えばいいのか」
男は蒼くなっておろおろしている。
「しょうがねえな。今から弥勒の家へ行くぞ」
「え、ですが……」
「あたしたちも今から弥勒さまの家に行くところよ。弥勒さまって、あんなだけど基本的にはいい人よ。あたしたち二人と奥さんの珊瑚ちゃんで説得すれば、引き受けてくれるわよ」
「あの、あんな、とは……」
「むしろ、最初から珊瑚に頼めばよかったんだよ。そうすりゃ、ぼったくられずにすむ」
「ぼ、ぼったくる……?」
村での評判はおおむね良好で、話の解る人物だと判断したのに、件の法師は妻を褒めすぎると不機嫌になり、この二人の口ぶりでは普段から平気で料金をぼったくっているようだ。
人物像がよく解らない。
「あの、ぼったくられるというのは……」
「ああ、こっちの話だ。気にすんな」
法師宅へ引き返した男は、半妖と巫女とさらに法師の妻の口添えで、無事、妖怪退治を引き受けてもらうことができた。
が、法師と半妖が請け負う仕事に、さらに退治屋であるという法師の妻と巫女までが乗り出し、謝礼額は当初の予定よりさらに割り増しされてしまった。
〔了〕
2014.10.10.