子供がいてもラブラブな夫婦に10題
08:毎日が記念日
実りの季節。
弥弥と珠珠と翡翠、弥勒と珊瑚の子供たちは、村の農作物の収穫を手伝いに行っている。
といっても、大した戦力にはならないだろうが、畑仕事を体験することは子供たちによいことだと、折りにふれて農作業を手伝わせてもらっているのだ。
無論、法師の子供たちであるから、収穫物のお裾分けもしっかりもらってくる。
この日、珊瑚は気分がすぐれず、家に残り、子供たちは三人で畑に出かけた。
村の人たちは気心の知れた間柄であるし、何かのときの子供たちの監督はかごめが引き受けてくれている。
今年は豊作のようだ。
泥だらけになって働いた弥弥と珠珠と翡翠は、この日の収穫物である里芋をたくさん入れた籠を抱えて、家に帰ってきた。
「母上ー!」
嬉々として帰宅すると、縁先に両親の姿を見つけた。
だが、力なく縁に腰掛ける母の珊瑚の顔は蒼白で、傍らに立つ弥勒に肩を支えてもらい、彼が持つ茶碗に手を添えて、ゆっくり茶碗の水を飲んでいた。
三人は驚いて立ちすくむ。
「母上、気分悪いの?」
「お腹痛い?」
「大丈夫?」
里芋を盛った籠を地面に置き、心配そうに母のもとへ駆け寄る子供たちが口々に言った。
珊瑚が茶碗から唇を離すと、それを濡れ縁に置いた弥勒が、子供たちを見廻した。
「おかえり、弥弥、珠珠、翡翠。おまえたちに、母上から重大な知らせがありますよ」
「えっ、なあに?」
不安げな三つの顔を順々に見つめ、珊瑚はほんのりと色づいたやさしい笑みを見せた。
彼女は顔を上げて夫を見遣り、そして、再び子供たちへと視線を戻した。
「弥弥、珠珠、翡翠。来年、おまえたちに、弟か妹ができるんだよ」
三人は驚きに目を丸くした。
「弟か妹?」
「母上のお腹の中に赤子が来てくれたんだ」
子供たちの眼が大きく見開かれる。
「赤ちゃん、生まれるの?」
翡翠が言った。
「そう、翡翠は兄上になるんですよ」
幼い息子を抱き上げ、弥勒は誇らしげに、嬉しそうに、彼を珊瑚の座る縁に上げた。
弥弥と珠珠も濡れ縁によじ登り、両側から珊瑚の腕に小さな手をかける。
「赤ちゃんがいるの? ここに?」
「そうだよ」
双子は頬を紅潮させ、母の腹部にそっと耳を当てた。
「妹が欲しいな」
「うん、可愛い女の子。お花摘んであげる」
「弟がいい」
と、二人の姉に張り合うように言って、翡翠が珊瑚の背中に抱きついた。
「ねえ、母上。弟がいい。赤ちゃん、お芋食べる?」
「母上のお腹にいる間は赤ちゃんの分も母上が食べるけど、きっと、翡翠が収穫したお芋を喜んでくれるよ。たくさんもらってきたね」
翡翠は恥ずかしそうに珊瑚にぎゅっとしがみついた。
「今年はすごい収穫だな」
地面に置き去りにされた籠の里芋を見て、弥勒が三人の労をねぎらった。
「皆、頑張ったな。疲れましたか?」
「ううん、全然だよ」
「楽しかった」
「では、もうひと頑張り。皆で夕餉の支度を手伝いましょう」
「うん!」
子供たちは元気よくうなずいた。
珊瑚はにっこりと、三人の頭に順番に手をのせて言った。
「じゃあ、みんなでお芋を洗ってくれる? 衣かつぎにしようか」
「はあい!」
翡翠が真っ先に縁側から飛び降り、弥弥と珠珠も里芋の籠を抱えて、三人は毬のように台所へと駆けていった。
「母上はゆっくり来て!」
「三人でちゃんとできるから!」
「弟がいい!」
その姿を見送った珊瑚が腰掛けていた縁から立ち上がり、妻を振り返った弥勒は、軽く彼女と唇を重ね合わせた。
「あの様子では、明日にはおまえが身ごもったことが村中に知れ渡りますな」
「かごめちゃんはもう知ってるけどね」
弥勒と珊瑚は幸せそうに微笑み合い、寄り添った。
子供たちには毎日が新しい発見の連続だ。
そして、弥勒と珊瑚はそんな毎日が愛おしい。
夫婦になってからの二人の日々は、毎日が特別な記念日だった。
〔了〕
2014.11.23.