微エロな5題・「痛」
01:包帯を巻かせる
戦闘で弥勒が肩を負傷した。
朽ちかけた御堂に二人きりでこもり、かごめの薬箱を借りて、退治屋の装束のまま珊瑚が傷の手当てをする。
袈裟を解き、法衣をはだけさせ、滲む鮮血を抑えるため、消毒をしてから、まず、きつめに肩に包帯を巻いて止血した。
「つ……」
「ごめん、痛かった?」
法師を気遣いながら、珊瑚はそっと彼の肩から衣を下ろした。
途端にどきんと鼓動が跳ねた。
普段、肌を出すことがほとんどない弥勒の素肌を間近に見て、胸がざわつく。
やさしげな、やわらかな印象がある法師だが、実戦に身を置く彼の躰は男らしく、逞しい。
いつもこの躰に、この腕に抱きしめられているのだと意識してしまうと、もう駄目だった。
「……」
何となく居心地が悪くなり、珊瑚は視線を逸らした。
「珊瑚? どうしました」
怪訝な顔で訊かれる。
「なんでも……」
薄暗い中、不意に伸ばされた弥勒の無傷なほうの手が、珊瑚の左の胸に触れた。
「!」
「なんでもない? 鼓動がこんなに速いが……」
不埒にも、その手はそのまま、珊瑚の乳房を揉みしだき始める。
珊瑚の頬が熱を持つ。
「ふ、ふざけないで、法師さま」
「珊瑚こそ、ふざけずに、早く手当てを。痛むのを我慢しているんですよ」
切なそうに弥勒は言うが、珊瑚が彼の手首を押さえても、やんわりと胸を揉むことをやめようとしない。
「いや……って、あっ……」
思わず濡れた声がこぼれてしまい、羞恥を覚え、珊瑚は頬を赫くした。
恥ずかしさを誤魔化すために、彼の手をぴしゃりとはたく。
「やめて。やめてくれなければ、包帯を巻かない」
「それは困りますな」
どこまで本気なのか、痛みに顔をしかめるようにして、弥勒は彼女ににじり寄り、手を彼女の腰に廻した。
「ちょっ、くっつきすぎ。近すぎて巻けない」
「注文の多い娘だな」
「どっちが!」
だが、悪戯っぽく閃く彼の瞳を見てしまうと、何も言えず、珊瑚はどぎまぎとなって下を向いた。
とにかく包帯を巻き、治療を終えることに専念する。
やんわりと娘の腰をまさぐっていた弥勒は、包帯を巻き終わったところで、すかさず珊瑚を抱き寄せた。
「駄目、法師さま。みんな、すぐ外にいるんだよ」
「珊瑚が声を上げなければ気づかれません」
法師は珊瑚の耳朶を食み、熱い吐息でささやきかける。
「ほんとに駄目。誰かが御堂の中へ入ってくるかもしれない」
「口づけを交わす時間ぐらいありますよ」
そうなると、もう、珊瑚には抵抗する術がなかった。
なされるままに、熱くこもるような口づけを交わす。
唇の熱から全身を溶かされそうだ。
彼女の身体を片手で抱く弥勒は、再び耳に唇を当て、低く甘くささやいた。
「今宵、二人きりになりましょうか」
「駄目。傷に障る」
「駄目しか言わんのだな」
「駄目なものは駄目」
だが、そんなことを言いながら、珊瑚はこの男には絶対に逆らえないと、甘い悔しさを噛みしめていた。
すでに囚われている。
包帯で、この身を幾重にも巻かれているようだ。
〔了〕
2013.11.17.