微エロな5題・「密」

04:爪を切らせる (結婚後)

 自宅の縁側で、くつろいだ様子で柱にもたれて座る弥勒は、瞑想でもしているように、静かに眼を閉じていた。
 片手を伸ばした先には妻の珊瑚がいて、彼女は夫の手を取り、彼の爪の手入れをしている。
 使っているのは植物の木賊だ。
 薬草としても使うため、木賊は裏庭に植えている。伸びた爪を小刀で切るよりも、木賊の茎で研ぐほうが珊瑚の好みに合っていた。
 自分の爪の手入れをするついでに、時間があれば、こうして弥勒の爪の手入れも行うのだ。
 彼に触れていると気持ちが安らぐ。
 どんな小さなことでも、彼の世話をするのが好きだ。
 妻に片手を預ける弥勒が、夢見心地に小さく笑った。
「珊瑚、くすぐったい」
「じっとして」
 くすぐったいのは、愛しい妻にこんなふうに触れられているせいだ。
 このゆったりとした時間は、弥勒にとっても至福のひと時だった。
「はい。この指でおしまい」
 木賊の茎を置き、その指先を撫でて、珊瑚は仕上がりを確認した。
 柱にもたれたまま、弥勒は薄目を開ける。
 恥ずかしげに珊瑚がこちらを窺っているのが見えた。
 だが、すぐにまた、弥勒は眼を閉じてしまった。
 預けた手もそのままだ。
「法師さまったら」
 まだこの体勢でいたいと無言のうちに告げている彼の様子に、甘えているのだと感じ取り、たまらない愛しさを覚える。
 己の手の中にある、整えたばかりの彼の爪の先に、珊瑚はそっと口づけた。
 反応はなく、彼女に悪戯心が湧き起こる。
 ちろ、と舌先で彼の爪を舐めた。
 わずかにその指先が動いたが、法師は無言だ。
 躊躇いがちに、彼女は彼の指へ舌を這わせた。
「……」
 弥勒が眼を開けたが、それには構わず、珊瑚は法師の指に、ゆっくりと丹念に舌を這わせていった。
 珊瑚の舌が絡む指に、弥勒はもう一本、指を添えた。
 人差し指と中指で、珊瑚の舌を掴もうと追いかける。
 指を、舌を、互いになぶり合う。
「ん……」
 甘い吐息。淫らに絡まる舌と指。
 彼は柱から身を起こし、艶めかしく己の指に舌を這わせる妻に、もう片方の手を伸ばした。
 整えてもらった爪の先で、珊瑚の頬の線をなぞり、喉元を軽く愛撫する。
「法師さま……」
 密やかに息をつく珊瑚の瞳はすでに潤んでいて、その吐息は熱っぽかった。
 反射的に身を乗り出した弥勒は、彼女の手首を掴んだ。
 今すぐ珊瑚を連れて奥の間にこもるつもりだ。
「……いいな? 火をつけたのはおまえだぞ?」
 ささやく法師の声もかすれていた。

〔了〕

2013.11.19.

お題は「TOY」様からお借りしました。